成長した牛だって牛乳は飲まない
ところが、日本に牛乳文化を持ち込んだ欧米人には、現に牛乳や乳製品を飲食してきた歴史がある。哺乳類の本来的な生理機構と相反することだが、星氏はこれを「反ミルク体制の遺伝子機構が弱くなった民族」と捉えている。
つまり、牛乳に弱い東洋人を中心とする民族は、「離乳機構」が正常なのだ。日本人はもちろん、東洋の人々にいくら牛乳を強制的に飲ませても、この機構は崩れない。ところが、人類の歴史の過程で大人になってもミルクを飲める民族が生まれたのだ。ラクターゼの活性が大人になっても高いのは、主として牧畜を行う民族である。
牛や羊の乳や肉を食料としてきたヨーロッパ人種や、アフリカに住む一部の人種などが、その環境下で突然変異を重ねて牛乳を飲める体に変化したのである。これは成長の原理でも説いている「条件適応の原理」である。種は生存のために、その環境に耐えることができるよう進化?変容していく。
哺乳動物の中でも霊長類は温帯から熱帯にかけて種が生まれ、その地域の食物を食べ繁殖してきた。人間を除く200種近い霊長類は、今もその生活圏の中で生きている。ところが、人間だけは火を使うことを覚え、住居を作ることができるようになって、本来は霊長類の生活圏では無い寒冷地でも生活ができるようになった。
そうした地域に進出したヨーロッパや北アメリカの人間たちは、植物や穀物を中心とする本来の食物が十分に取れないために、やむを得ず牧畜を営み、牛乳・乳製品・肉類などを食べなければならなくなった。そうした生活の中で離乳の遺伝機構が変異を重ねて弱まっていったと考えられる。